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心も体も何かに縛られることなく生きてきた著者ならではのしなやかさが、読んでいて清々しい
(2008-10-26)
“異郷”と呼ばれる場所は、航空時代以前と今とではイメージが随分異なるでしょう。
本書に登場する“異郷”も、初めての海外旅行で赴くという日本人はさほどいないまでも、海外旅行リピーターの中にとっては、かならずしも一生足を運ぶことのない場所とはいえません。事実、ここに登場するアフリカのザンジバルは、私の知人女性がつい先ごろ旅行して帰ってきた場所であるほどですから。
本書は旅行案内記ではありません。著者の筆は必ずしもその土地の今だけを綴るにとどまらないのです。あるときは40年近くも前の体験談に相当の紙幅を割いていますし、またあるときはその土地にまつわる忘れえぬ読書体験を綴っています。読者は、著者自身の旅の途上での思索の跡をたどることになります。
それはいみじくも著者自身が、バトゥ・パハ川に詩人・金子光晴が特別のこだわりを見せたことに事寄せて綴っているように(110頁)、著者が異郷での旅の中に「その時までの人生で得た極めて私的で、最も重要な経験と体験のエッセンスを、掴みだそうとし」ている様子を目撃することを意味します。
そして著者は“異郷”の伝統が、想像以上に歴史の浅いものであったり、もしくは必ずしも一直線に継承されてきたものではなかったりすることをまず指摘しつつ、「失われゆく文化を嘆くよりは、新たな文化の誕生に向かう活力に興味を覚える」と綴ります。
本来は不純物が混入しないまま受け継がれてこそ伝統であるとするのが通念であろうはずなのに、「異質な事物同士の接触と融合」のダイナミズムに素晴らしさを見るのは、言語人類学者である著者の面目躍如といえるのではないでしょうか。
そういえば、著者の前著である「「食」の課外授業」でも、同じような変化のダイナミズムを尊ぶ著者の精神が綴られていたと記憶します。
何かに縛られずに旅に生きてきた著者のしなやかに、心打たれた読書でした。
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