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空白の核心
(2008-12-21)
1903年といいますから今から100年以上前。H・ジェイムズの、個人的には最高傑作と思われる小説です。何がすごいかといいますと、主人公と作者が、物語の核心を最後まで空白のまま、あいまいなままに保つこと。禁欲的な構造と、そのために持ってまわった回りくどい表現。結論を知らないと展開がわかりにくいのですが、しかし、このわかりにくさに翻弄されたい小説です。気持ちよすぎ。
Ambassadors=大使たち、というタイトルどおり、アメリカにいる大富豪の女性からの依頼を受けた主人公がヨーロッパにくるわけですが、その依頼の対象である青年が、アメリカ対ヨーロッパ、大人対青年、男対女、といくつもの対立軸で観察されながら、どこにもあてはまらない空白として描かれるのがすごい。その姿勢は徹底していて、真相を目撃した後でも、あえて空白であると思い込もうとします。ほとんど倫理的なレベルです。それは、「大使」=代理であるはずの主人公自身の考え方が変化して依頼の解釈を変えていくからなのです。真相を確定して代理の使命を果たすのではなく、あくまであいまいな真相を自ら判断するのだという姿勢がすばらしい。代理でいつづけることはできない人間の本性!
自らの地位を省みず、大使でありつつ最後まで「代理」を批判する主人公の生きざま。その「自由」をごらんください。
待っていた翻訳
(2008-09-05)
原書ではなかなか読めないでいましたから、翻訳が出て本当にうれしいです。
私事ですが、「リプリー」が初めて原書で読み味わうことのできた小説でした。それから約20年、あまり多くない読書体験からも特に英米文学の作家の何人かに興味を引かれ、そのうちの一人、H.ジェイムズが「リプリー」の元となるような作品を書いているのを見つけ是非読みたいと思いました。ところが、英文が難解。映画化とともに出版された他の後期傑作の翻訳を手がかりに原作を読み、英語力をつけて再挑戦しようと計画するも、「鳩の翼」や「金色の杯」も日本語ですら読み通せないのでした。青木氏の解説を読んで終わりでした。本当かしら?と思いながら。
「大使たち」も出だしで挫折しそうでしたが、解説をヒントに読み進んで行きますと、だんだんおもしろくなってきました。読み通せないジェイムズ作品が続いてすっかり忘れていた、「アメリカ人」が思い出されます。ジェイムズに興味を持つきっかけとなった初期の作品。スイス寄宿学校時代の友だち、パリを訪れるアメリカ人・・・いくつか共通点があるのです。「大使たち」はずっと大作ですが。
翻訳に関しては、この本を読んで英会話文を日本語にする難しさを感じました。たとえば、「その通りです!」といった返答。日本語の会話ではあまり使われないため違和感があると思います。 英語ではその意味の表現がいくつもあるのに。また、会話文で登場人物を書き分けているのにしばしば驚くジェイムズですが、日本語ですと鋭さが失われがちです。
男性作家の描く女性像には、時に反感を覚えることもありますが、ジェイムズの作品に登場する女性たちはリアルで刺激的です。久しぶりに心に響く作品を読むことができました。
90年代に映画化されたのに翻訳が再刊されなかった「ワシントンスクエア」も出ますように。ニューヨークのフィルムフェスティバルでたまたま映画を見る機会がありましたが、「女相続人」より原作に忠実と言われながら平凡な出来で残念でした。冒頭では、アメリカでの医学の発展を予見する内容に驚かされますし、後半は人間の怖さにぞくぞくします。
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