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???20世紀を代表する作家ボルヘスの肉声が、30年を経て活字化された。本書のもとになる講義は、1967年から翌年にかけてハーバード大学で行われたものだが、録音テープは長らく地下室で眠っていたのだ。
???こうした経緯だけみても貴重な書物といえるが、一読して気づくのは、ボルヘスのことばや思想がいささかも古びていないことである。むしろ驚くほどみずみずしく、まるで昨日耳にしたようだといっても言い過ぎではない。ホメロスや荘子、シェイクスピアからコナン=ドイルまで、古今の詩や散文に言及して、隠喩や詩の翻訳、言葉の響きなどの題を自在に語りあげている。信じがたいことだが、当時ほとんど目が見えなくなっていたボルヘスは、メモを使用することなくこの講義をしとげたのだという。
???語源にまでおよんで繰り広げられるボルヘスの詩論はもちろん魅力的だが、自身の文学遍歴にも少なからぬページを割いている。ボルヘスの愛読者にとってはこれだけで興味を引かれるだろう。
???とはいっても、簡単に手の内を明かすボルヘスではない。わかりやすい創作秘話をさらけ出してくれるわけもなく、彼の内面は、時折こぼれる言葉のはしばしから読者ひとりひとりがすくい取っていくことになる。「人は、読みたいと思うものを読めるけれども、望むものを書けるわけではなく、書けるものしか書けない」「言語はまた音楽であり情熱であり得る」「作家であることは…自分自身の想像力に忠実であること」。こうした宝玉のような一節が次々に現れ、ことばの輝きそれ自体に魅了されてしまう。
???だが、本書から垣間見えるのは、ボルヘスのかけらにすぎない。天空にまで達する巨峰、それがボルヘスなのだ。そのわずかな尻尾にすら眩惑されてしまうわれわれを、巨人は不敵な笑みで見下ろしている。そんな気がしてならない。(大滝浩太郎)
名作を逍遥する
(2002-07-20)
「伝奇集」や「エル・アレフ」といった奇怪な世界を生み出す、ボルヘスの想像力はどこから来ているのか。この本では、ボルヘスの文学遍歴が本人の口から語られている。ボルヘスが夢中になった本はどんな奇異なものかと思っていたが、どれもこれも古今の名作ばかりだ。ホメロス、シェイクスピア、セルバンテス、ポー、コナン・ドイル…。
珍奇なもの、新しいものを探し歩くのではなく、名作と呼ばれるものを何度も何度もくりかえし読み、その文学の奥深くまで入りこむこと。それが「ボルヘスの読み」の秘密であるようだ。
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